
僕はムギである。
皆がそう呼ぶから、そう思っている。
僕はほんの少し、大人になった。
自分が何者なのか、どこへむかっていくのかはまだ分からないけれど、
正しいことが何なのか、ほんの少し解りはじめてきた。
だから勝つだけが全てではないし、勝ちの意味もほんの少し変わってきた。
それでも喧嘩を売られたら、もちろん買う主義だ。
そんな時はやはり、僕は勝たなければならないと思う。
僕は僕のお世話をする人に連れられて、『Ocean Papa Land』というドッグランへ来た。
僕が社交の場へ出るのが初めてということで、僕のお世話係はとても怖気づいていた。
僕はといえば、大きなワンコ達に囲まれて匂いをかがれても、一向に動じることはなかった。
僕の事を知ろうとしてくれていると感じ、むしろ誇らしくあった。
僕はほんの少し、大人になったのだ。
そんな中、僕に言いがかりをつけてくる子がいた。
一方的に言いがかりをつけられて、初めのうちは我慢していたけれど、我慢にも限界がある。
そもそも、僕は売られた喧嘩は買う主義だ。
僕は思いっきり言い返してやった。
相手は僕よりも3歳も年上の男の子だったけれど、僕は勝ったのだ。
とはいえ、僕らは互いに実害は与えず、終始話し合いで解決することができた。
少し僕より臆病な性格なだけで、全然悪いやつじゃなかった。
僕のお世話係の人は、
「ふぇ~。」
とか、
「ひえぇ~。」
とか言っていて、まるで頼りにならない。
全く、大きいだけなんだから。
それでも僕は構わない。
僕はほんの少し、大人になったのだ。